『気紛れな奇術師のごっこ遊び』










息苦しい夢にうなされる。

「んん・・・」

気のせいなのか苦しくなって目を覚ます。
真っ暗で何も見えない。
僅かたりとも動かない空気が、ここが密室だということを物語っていた。
しかもかなり狭い密室。
なんとなく空気が薄い。

(ここ何処だろう・・・? オレ何してたんだっけ・・・)

ゴンは記憶を辿るが何故か思い出せない。
それに身体が酷く重くて思うように動かない。

(なんだコレ・・・)

訳の分からない状況に少年は恐怖を感じた。

急に気配がして、ドアが開けられた。
突然侵入してきた光が眩しくてゴンは目を細める。


「気分はどうだい◆」


聞き覚えのある声。
男は飄々とした笑みを浮かべながら尋ねた。


「ヒソカ・・・!」


ジャラッ・・・
ゴンは反射的に起き上がろうとしたが
身体の痺れと、首に鎖が繋がれていたのとで上手くいかなかった。
それを見てヒソカは笑みを一層深くする。

「ご気分は★」

「・・・・・・」

「んん〜?」

「ヒソカこれ、どうゆうこと・・・?」

「・・・どういう事だと思う?◆」

ヒソカは意地悪そうに聞き返した。
ゴンにはさっきから頭を巡らせて考えた結果、辿り着いた一つの答えがあった。

「・・・誘拐」

ゴンは警戒心丸出しで呟いた。

「クックック◆ 正解v」

ヒソカがさも可笑しそうに笑った。
身勝手なヒソカにゴンはぶち切れた。

「何でそんな事するんだよ!そんなにオレを殺したいなら殺せばいいじゃんか!」

「別に殺したいって訳じゃないんだ◆」

「じゃあ何で・・・」

「急にキミをペットにしたくなってね・・・★」

「ペット・・・?」

怖い、と思った。
言った瞬間、ヒソカの形相が変わった。
今すぐここから逃げ出したかったが、身体の痺れと自分を拘束する鎖が、それを許してはくれなかった。
部屋中が恐怖に包まれる。

カチャリ・・・。
ヒソカはドアの横の壁にあるランプに火を点けると、後ろ手に扉の鍵を掛けてゴンに近付く。

(た、助けてキルア・・・)

吹き出る汗で服がぐっしょり濡れて身体に貼り付いている。
ヒソカはゆっくりと近付いて、鎖で床に繋がれて寝ているゴンの横に屈んだ。


「大丈夫◆ 痺れが取れるまでは酷いことはしないから◆」



にっこりと、満面の笑みを浮かべてヒソカは言った。
痺れが取れるまでは。
痺れが取れたら何をされるんだろうか。

ゴンは恐ろしかった。



「そうだ★ お腹は空いてないかい?ここに来てからもう丸一日経つしね★」

丸一日経ってるのか・・・。
ゴンは首を振ったが、お腹は正直だった。
ぐぅ〜〜・・・。
本人の意思に反して思いっきり鳴ったお腹に、ゴンは顔を赤らめた。

「正直でカワイイよ★」

ヒソカはくしゃくしゃっとゴンの頭を撫でて、立ち上がった。

「今食べ物を持ってくるから◆」

そう言ってヒソカはさっき入ってきたドアを開けて部屋を出て行った。

・・・どうする?
チャンスだ。
もし逃げようとして失敗したらヒソカのことだから何されるか分からないけど、このままここにいては絶対に危険だ。
どうせ危険なら1%でも助かる方に掛けた方がいい。
ゴンは心を決めて、痺れる身体に鞭打って、床に刺さった杭に繋がれた首輪をどうにか外そうと試みた。

が、しかしそれは叶わなかった。
今度は鎖を引きちぎろうとするがそれも無理な様。
床に突き刺さった杭を引っこ抜こうとするがどうしても駄目だった。

「くっそ〜、なんで外れないんだよ〜;」

もう一度力任せに引っ張ってみるが鎖も杭もびくともせず、引っ張るだけ首輪が苦しいだけだった。
身体が元に戻れば抜け出せるかも知れないのに・・・。
ゴンは舌打った。


「よ〜しこうなったら・・・」


床を壊すしか・・・!
この床なら全力でやれば壊せるかもしれない。

ガチャ。

「何をしてるんだい◆」

「ヒソカっ・・・」


こうなってしまってはもう脱出は無理だ。
例え床を壊せて鎖から抜け出せたとしても、ヒソカが追ってきたら逃げ切れない。
ゴンは落胆するしかなかった。

「もしかして、もう動けるようになったのかい?」

ヒュッ、とヒソカは食事と一緒に持ってきた果物ナイフを殺気と共にゴンに向けた。
ゴンは驚いて後方に避けたが、勢いに乗った身体を腕が支えられなくて、ガクッと後ろに倒れた。

「クックックック・・・◆」

「ヒソカ・・・、オレに何するつもり?」

「何って、美味しいご馳走を食べさせてあげようと思ってるだけだよ★」

「・・・本当に?」

「クック・・・本当だよ◆」


ヒソカは今は低く屈んで優しい顔でニッコリと微笑むばかりだ。
さっきの恐怖感はもう感じない。
だがゴンはとても信じられなくてしばらく長い間ヒソカの目を見つめていたが、
激しい空腹に負けてとりあえずゴンはその緊張を解いた。

「それならいいんだけど・・・。
それ、ホントに美味しそうだね。ヒソカが作ったの?」

「もちろん違うけどね★」

「なーんだ。そうならちょっと尊敬したのに」

「それは残念◆」

ゴンは重い体を引きずるようにして料理の前に移動した。

「食べていいんだよね?」

「どうぞ◆」

ゴンはこんな状況でもいっただきまーすと行儀よく挨拶して、ケチャップのかかった大きなオムライスにスプーンを突き刺した。

「でも、大分動けるようになったみたいだねぇ。さすがだ★」

ヒソカは両頬に肘をついた格好でしゃがんだまま、ガツガツモグモグと食事をするゴンを観察しながら言った。

「せっかく、動けないなら僕が食べさせてあげようと思ったのに◆」

ゴンは食べ物とヒソカを交互に見ていたが、口は物を頬張るのに忙しいらしく喋れないようだった。



「う〜ん。やっぱり◆」


相変わらず笑顔でゴンを観察していたヒソカは、そう言いかけて自分も料理を口にする。
モグモグと噛み潰した後、素早くゴンの上に移動して上から口付けた。
ゴンはいきなり顎を掴まれ無理矢理上に向かされて、飲み込もうとしていた口の中の物が飲み込めずに苦しがったが、その上ヒソカが間髪入れずに自分の口の中の物もゴンの中に押し込んだから余計に苦しそうにもがいた。。


「んっぐぅっ・・・」


「やっぱり僕が食べさせてあげる◆」



ヒソカは恍惚を含んだ微笑を浮かべ、力ずくでゴンを床に押し付けた。

「っ・・・!」

後頭部を強くぶつけ、ゴンは苦痛の表情をした。
口に入った大量の物がまだ飲み込めず、順々に飲み込もうと頑張っていると、ヒソカがオレンジジュースの入ったグラスを手に持って、ゴンに馬乗りになった。

「飲み込めなくて苦しいようだね?今飲み物をアゲルから◆」

ヒソカは口一杯にオレンジジュースを含むと、ゴンの口を抉じ開けて一気に流し込んだ。

「げぼっ、ごぼっ・・・」

ゴンは余りの苦しさに目を見開き、それでも頑張って少しずつ飲み込んだ。

「もっといるかい◆」

バシャッ、とヒソカは残りのジュースをゴンの顔にかけた。
泣きそうになるゴンを口元の笑みを一層濃くしながらヒソカは見下ろす。
とりあえず彼はゴンが全部飲み込み終わるのを待ってやった。

「どうだい?美味いだろ?」

「ヒソカ・・・!降りてよ!もう帰る!」

「帰すと思うかい?★」

「どうしたら帰してくれるの?」

「そうだなぁ・・・・・・◆」

う〜ん、とヒソカはしばらく考えていたが何かいいアイディアが思いついたのか「そうだ◆」とてをぽんと叩く。


「キミがあるものを『欲しい』と言ったら帰してあげよう◆ ・・・ちなみにあるものが何かは秘密★」

「???」

「まぁ、強情なキミのことだから数日は言わないだろうけどねぇ◆」







つづく