手紙
隣りのゴンの部屋に入ろうとドアを開けると、はらりと二つに折りたたまれた紙が足元に落ちた。
「ん・・・? 何だコレ」
キルアは紙を開くと、それは手紙だった。
・・・ゴン宛の。
―― 今夜、0時に待ってる◆ ――
差出人の名前は無かった。
だがキルアはすぐに誰だかを察した。
(こんな事するのは・・・アイツしかいない)
「あれっ?どうしたのキルア」
やっとキルアに気付いたゴンの声が簡単に沈黙を破った。
「ああ、ゴメン」
どうしようか。
ゴンをアイツに会わせないためには、コレを渡さなければいいだけだ。
そうすればいつも通り今日もゴンと一緒にいられる・・・。
ゴンをあんな奴に渡したくない・・・。
だけど・・・
「コレさ・・・ドアの所に落ちてたぜ」
ゴンはヒソカを好いていた。
口では決してそんなことは言わないけど。
俺には・・・何となく分かる。
だから、こんなところでゴンを裏切りたくはなかった。
「・・・・・・」
ゴンはじっとそれを見つめ黙り込んだ。
「・・・ゴン?」
俺は返事をしないゴンをもう一度呼ぶ事が出来なかった。
胸が痛い。
凄く心地の悪い感情。
今のゴンに俺は見えてないんだ―。
俺は入ってきたドアに向き直り、部屋を出ようとした。
「えっ、何処行くのキルア?」
「ん、別に、部屋に戻るだけだよ」
「何か用があったんじゃないの?」
「んー、忘れた」
呼び止めるゴンに背を向けたまま、俺は廊下に出て扉を塞いだ。
胸が苦しい。
この感情は何だろう。
悔しいような、悲しいような、寂しいような。
キルアは自分の部屋に戻り、ベッドに潜った。
溢れ出る嫌な感情から逃げるように、キルアはじきに眠りに落ちた。
ふと目覚めて時計を見ると、ちょうど0時を過ぎたところだった。
嫌な時間に起きちまった・・・・・・って、・・・え?
隣りで幸せそうに寝息を立てるゴン。
「ハ!?お前なんでここにいんだよ!?」
「ん〜・・・キルア起きたの?」
ゴンは眠そうに目を擦りながら起き上がる。
「起きたのじゃねーよ!ヒソカんとこに行くんだろ?」
「ああ・・・あれはいいんだ」
「何がだよ」
「・・・・・・」
「言っとくけど、同情で俺のトコに居んなら追い出すからな」
「違うよ!・・・」
ゴンは何だか複雑な顔をした。
「何か怖くて・・・。先週ヒソカの部屋に行ったんだけど・・・」
「何かされたのか?」
「ううん。でも・・・なんかされそうだったから怖くて逃げたんだ」
ゴンが眉根を寄せて深刻そうな顔で言った。
「・・・・・・。ブっ」
俺は思わず噴き出してしまった。
「逃げてきたのか・・・!お前やるなー!
あーマジ、アイツの拍子抜けした顔想像すると腹いてーっ」
「・・・?」
突然爆笑し出し、ゴンはさっぱり状況が掴めない様だったが、キルアはさらりと無視しておいた。
「ま、とりあえずよかったよ。・・・今日はココに居ろよな」
「うん。キルアの布団暖かくて大好きっ」
ゴンは再び寝転がるとキルアに抱きついて体温を確かめるように擦り寄ってきた。
「ったく調子いいよなー」
だけどそんな君が放って置けない。
君から目が離せない。
今はとりあえず嫌な感情は消えたけど、これでハッピーエンドじゃない。
本当は誰にも渡したくないんだ。
君の心を、どうしたら独占していられるかな。
End.