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歌姫









「聖歌隊に入ってみたの。」
ある日彼女が嬉しそうな顔でそう言った。

「へえ、イグレーヌに合ってるじゃない。」


彼女は歌うのが好きだった。
道を歩く時はもちろん、仕事場でも料理をしている時も鼻歌を欠かさない。

イグレーヌは何年か前にこの国へ移住してきたのだが、
ここへ来る前も、よく歌を歌う環境にあったらしい。
生まれついての歌好きで、この国へ来てからもそれは同じだった。

イグレーヌが入った聖歌隊というのはもともと歌好きな仲間が集まって作られたもので、
収穫を祝うウルグ祭や年末の人の集まる時期などで毎年何度か演奏をしてくれるのだ。
知らない人もいるだろうが実はプルトにはいろいろな集まりがあって、
この聖歌隊は結成されてから結構歴史を重ねてきているため、今では国の公式の場でも演奏され恒例の行事となっていた。

それからというもの、イグレーヌは練習がある休日には毎回欠かさず嬉しそうに出掛けて行った。

「君は僕より歌のほうが好きなんだなぁ。」

僕はからかい気味に言ってみた。

「何よ、そんなことないわよ。
でも、楽しいの。歌うのってとっても気持ちがいいのよ。」

イグレーヌは本当に幸せそうな表情でそう言った。
判ってるけど、妬いちゃうよな。
そんな顔するんだもの。


「明日の結婚式は私の初舞台なの。
アポロンももし良かったら聴きに来て。」

「そうなんだ。じゃあ、行ってみようかな。」






次の日のこと、リハーサルがあるのでイグレーヌは仲間達と一緒に僕より先に家を出た。
僕は一足遅れてワクトの神殿へ向かった。
扉を潜ると大広間にはかなりの人が集まっていた。
何しろ娯楽の少ない国だから新郎新婦の幸せを分けてもらえる結婚式ともなると大勢の人が集まるのだ。
僕はイグレーヌの姿を探したが彼女は見当たらなかった。

「そっか、裏の方で準備してるんだな。」

僕は人々のざわめく中式が始まるのを待った。
しばらくして、神父様と巫女さんが出てきて挨拶をし、主役の二人が出てくると場内は拍手に包まれる。
二人は僕の知らない人だったから感動にまでは至らなかったが、式は穏やかに進んでいった。

「それでは聖歌隊の演奏をお聞きください。」

おっ、出てきたな。
巫女さんの言葉を聞いてイグレーヌ達が右前の扉から出てくる。
白い衣装を着た男女で構成された隊が僕等観客と新郎新婦の前に綺麗に並んだ。
楽器の演奏は無い。
指揮者が一礼をして手をかざした。



今日の日 祝福の日よ
汝ら ワクトの前で契りを交わす
汝ら 永遠の供たれ
汝らの心通うように
祝福の日よ
数多の神が汝らに寄り添うだろう



歌が始まる前に僕は人を掻き分けイグレーヌの近くに移動した。
そのおかげで彼女の声がちゃんと聞き分けられた。
鼻歌はいつも聞いているが、ちゃんと歌うのを聞くのは今日初めてだ。
だから感動もひときわだった。
最も、僕は式ではなくて歌に感動したのだが・・・。
なるほど、確かにイグレーヌは凡人とは思えない格別な声を持っている。
今は聖歌隊という中に埋もれているがもしかしたら故郷では独立して歌ってたのかも知れない、と思わせるほどだった。
歌は素晴らしくて、これから奥さんになろうという新婦が感動して泣いてしまっていた。
傍で肩を抱く新郎も心なしか目が赤くなっていた。

大勢の人に見守られて、結婚式は無事終わった。




「結婚式、よかったね。歌が素晴らしかった。」

「見に来てくれてありがとう。初めてだったから緊張しちゃった!」

緊張した、と言いながら、歌ってる時はすごく楽しそうな顔をしてたよ。
歌うところを見て感情移入した僕も思わず笑みがこぼれてしまう。


「へん・・・、何が結婚式だよ。」

式が終わって人が去った神殿に、少年が一人、場違いのように入ってきた。
少年が吐いたその言葉にびっくりして僕達は振り向く。
よく見ると彼は酷く暗い顔をしていた。

「ねぇ君、結婚式はもう終わっちゃったよ。」

「結婚式を見に来たんじゃないやい!」
彼は吐き捨てるように言った。

「じゃあ、どうしてここに?」


「これから母さんの葬儀なんだ。」



・・・葬儀、とは。
そうか、誰かが長い間病で伏せっていると人づてで聞いたことがある。
この子はたぶんその人の子供なんだろう。
その人が亡くなったのか。
僕もイグレーヌも少年に何て言ったらいいのか判らなかった。

僕達は何も言わないで、そのまま残って少年の母親の葬儀に参列した。
葬儀には父親の姿はなかった。
親戚らしい人達の話が聞こえて、父親の方は母親が病に伏せるもっと早くに亡くなったことが判った。

少年は泣かなかった。
涙一つ流さず、親類の呼び掛けにも応じずに、ただ無言で俯いていた。


その時、先程出て行った聖歌隊が再び戻ってきた。

「あら? どうしてまた戻って来たんですか?」
イグレーヌが不思議そうに彼等に問い掛けた。

「うん、議長さんにね、頼まれたのよ。彼女の息子さんのために歌ってあげてくれって。」

「そうなんですか。」


「そんなモンいらねーよ!!聖歌隊なんてクソくらえだ!!」


その瞬間横で聞いていた少年が罵声を上げた。
彼を見知っている親類が止めに入ったが少年は子供の力ながら振り払う。
「痛っ」少年の力が結構強かったのかその女の人は後ろに倒れ尻餅をついた。
一瞬皆少年を醜い物でも見るかのような目で見はしたがその後は誰も止めには入らず、
彼は葬儀が全部終わらないうちにそこを飛び出して行ってしまった。

大広間に静かな溜息が漏れた。





夜、ふと窓の外を見ると小さな影が走って行くのが目に入った。

「こんな夜中に子供?危ないな。」

「どうしたの?」

「いや、今子供が駆けて行くのが見えたんだ。」

「こんな時間に?心配ね。見に行ってみる?」

「・・・そうだね。見に行ってみよう。」

僕とイグレーヌは上着を着て外に出た。
夜の風は少し肌寒い。

「えーっと、こっちに走って行ったんだけどな・・・。」

「あっ!あれじゃない?あの子よ、さっきの。神殿に入って行ったわ。」

暗くて見失いそうなので急いで追い掛けたが、早くも見失ったようだ。

「おっかしいなぁ。どこ行っちゃったんだろ。」

目が慣れると月明かりでほんのりとは見えるものの神殿にはもちろん灯りは点いていないので手探りで進んでいると
いつの間にかナーガの安置所に来ていた。
「しっ。」イグレーヌが目を凝らした。「やっぱりあの子だわ。ほら。」
ナーガの安置所は、死者を安置しておく場所だ。
といっても火葬するまでだが。
大抵は葬儀の翌日に火葬する事になっているのでそれまではここで置いておく。
冷たい部屋に冷たい石の棺が二つ並んでいた。
その片方のところに少年がいて、ちょうど棺の重い蓋を開けようとしているところだった。

「こら、開けちゃ駄目だぞ。お母さんは眠ってるんだからね。」

「うわぁっ!」少年は今まで僕達に気付かなかったのか驚いて跳ね上がった。

「お母さんの事、本当に大好きだったのね。」

「・・・あんたらには関係ないだろ。」

イグレーヌは言ったが少年は相変わらず突き放すような物言いだ。


「ねぇ、君は歌が嫌い?」
イグレーヌはちっともめげてない様子だ。
大人しそうに見えて、こういう時だけは驚くほど強い。

「別に歌が嫌いな訳じゃねーよ。」
彼は素っ気無く言った。

「聖歌隊が嫌いなの?」

「いや・・・そーいう訳じゃないんだけど。」

イグレーヌがちゃんと話さなくては引き下がらないと悟ったのか、
面倒臭そうに頭を掻いて、彼は仕方無く続けた。

「歌や聖歌隊が嫌いな訳じゃないんだ。
ただ、『人に頼まれたから可哀想な子供に歌ってあげる』っていうのが気に食わなかっただけ。
そんなことされたら、あんただって余計惨めな気持ちになるだろ?
詩だって自分で作ったわけじゃないし。
そういう大人の表面だけ良い人ぶるところが、オレは大っ嫌いなんだよ。」

「そういえばさっき親戚の人にも君は答えなかったわね。」

「うん。オレの嫌いな、そういう大人だから。」

「何故そう思うの?表面だけか心からそう思ってるのかなんて、簡単には判らないモノじゃない?」

「お母さんはお金持ちだったんだ。
それで困った人がいると、少しでも助けになればってよく寄付してたんだよ。
だけど病気になってから母さんは僕の好きなように使えって財産を全部僕に託したんだ。
ずっとそのお金はお母さんの看病のために使ってたけど、お母さんは死んじゃって・・・。
アイツらオレがそのお金をどう使うのかが気になってしょうがないんだ。
オレに気に入られようとしてわざと愛想良く振舞う。
でも知ってるんだ。アイツらオレのこと煙たがってる。
オレだって単純じゃないからね、アイツらの思い通りにだけは絶対なりたくないんだ。」

そういうのもあって、オトナってのを信じないようにしてる。
でも、お姉ちゃんは変わってるね。」

「そお?」

「うん、子供に媚びを売らないから。」

「ふふふ。君に信用された訳だネ。」

「このお兄ちゃんは、お姉ちゃんの恋人なんでしょ? お姉ちゃんが認めてる人だからオレも認めてアゲル。」

「ははは・・・、ありがと。」

素直に喜べなくて、苦笑いした。
でも、イグレーヌってすごいな。
彼女にとっては全然すごくない事なのだろうが、ちょっと横で見てて感激してしまった。

「ねぇ、歌詞が無い歌聞いてみる?」

「歌詞が無いの?それって歌じゃないんじゃ・・・」

「・・・。とにかく聞いてみて!」

「フフフ・・・。」
イグレーヌの焦る様子を見て、少年は笑った。

イグレーヌもつられて微笑み、ア、ア、アーと発声練習をした。
歌詞が無い歌?
そんなの聞いたこともない。
そういう曲があるのだろうか。

彼女は一呼吸置いて、歌い始めた。
これは歌と言えるのだろうか。
アーとかウーという言葉にならない声がメロディーを創っていく。

それは聞いたことも無いメロディだった。
脳裏に、見たことの無い街の景色がよぎった。
薄暗い曇り空、灰色の街並みに雪がしんしんと降り積もっていく・・・。
けれど、ストーブの火が燃える家々の中には、家族の暖かい談笑があった。
これは彼女の故郷の街だろうか。
それとも、もともと僕の心の中にあったものなのだろうか・・・。


少年は、泣いていた。
何かの糸が切れたように、嗚咽と一緒に後から後から涙を流していた。


「お母さん・・・」


イグレーヌは優しく少年を抱いた。
穏やかに微笑む彼女が、まるで女神のようにも思えた。


















現在PLAY中のPCアポロンとイグレーヌ(みづちらみあさんから頂いたキャラ)の物語です。
PCであるアポロンは何もしていませんが(笑) まぁ語り部ということで・・・。
イグレーヌはいつの間にやらこんな設定になってしまいましたよらみあさん!

本当はアポロンのほうも芸術気質なのですが、今回はイグレーヌが主役なので彼には抑えて貰いました(汗)

アポロンは芸術と太陽の神アポロン神から名前を取っているので彼には太陽のイメージ、
反対にイグレーヌはその柔らかな金髪と優しい性格から月のイメージを私は持っています。
正反対の二人の出会いに運命を感じたので(妄想)、この二人はかなりお気に入りです。
そんな訳で、とうとう二人の話を書いちゃいました。

これをきっかけに二人を知ってもらえたら嬉しいなぁ〜。
でもつたない文章なので読者さんに伝わるのか謎です;;




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